ジェンダーの視座を活かした「実世界と結びついた数学」 教材の評価と展望(JSPS科研費 JP18K02942)

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ジェンダーの視座を活かした「実世界と結びついた数学」 教材の評価と展望(JSPS科研費 JP18K02942)

ジェンダーの視座を活かした「実世界と結びついた数学」教材の評価と展望 瀬沼花子
馬場 国博
慶應義塾湘南藤沢中・高等部教諭
馬場 国博
Kunihiro Baba
1992年 慶應義塾大学理工学部卒業
1994年から慶應義塾教諭、同年より慶應義塾大学総合政策学部非常勤講師を兼担
2022年度より慶應義塾大学理工学部にて「数学科教育法I・II」を担当予定
博士(理学)
中等教育でのデータサイエンス教育の現状
1. はじめに

平成29, 30年に告示された新学習指導要領では、算数・数学科の学びの過程での数学的活動の充実が求められている。これは算数・数学の問題発見・解決の過程を、数学の世界と、日常生活や社会の事象といった現実の世界とを相互に関わり合わせて展開するものである。その上で、「社会生活などの様々な場面において、必要なデータを収集して分析し、その傾向を踏まえて課題を解決したり意思決定をしたりすることが求められ」るとして、統計的な内容の充実が図られている。

2. 慶應義塾湘南藤沢中・高等部でのデータサイエンス教育の試み

筆者の勤務校では、1992年の開校当初から統計教育に力を入れている。中学1, 2年生には統計グラフコンクールへの応募を義務づけ、身近な問題や社会的課題についてグラフ表現を用いて1枚のポスターでその背景や現状、課題解決に向けての提言を端的に表現する力を学ぶ機会としている。

中学数学での「データの活用」や高校数学Iでの「データの分析」はもちろんのこと、現行の課程では数学Bに含まれている「確率分布と統計的な推測」についても全員に履修させている。また、高校3年生の選択科目「データ科学」(学校設定科目)では、Rを用いてデータを分析し、データに隠された法則や意味を引き出すことを目指している。この授業では1年間の前半を、「統計データ分析コンペティション」(統計センターなどの共催)への応募を念頭に、SSDSEという市町村別や都道府県別の公的データを分析し、その結果を論文にまとめることによって、数学的活動を通じての問題発見・解決のプロセスを学習させている。詳しくは、第18回統計教育の方法論ワークショップ
( https://estat.sci.kagoshima-u.ac.jp/SESJSS/edu2021.html )での下記の報告(2021年2月27日)レジュメを参照されたい。

https://estat.sci.kagoshima-u.ac.jp/SESJSS/PDF/JCOTS21_D2S3P3_baba.pdf(PDF:194KB)

上記の発表は2020年度の授業実践に基づくものであるが、2021年度の授業実践報告についても、第19回の同ワークショップ

( https://estat.sci.kagoshima-u.ac.jp/SESJSS/edu2022.html )にて発表予定である。

また、ベルトラン・パラドックスや標本調査を題材にしたグループ学習、ケーススタディ方式で現実問題の解決を考えるBowland Japan の教材を用いた授業展開について、『数学教育』2013年1月号(明治図書出版) p.86-89 に「慶応式 体験探究型学習のすゝめ 第10回」としてまとめたので併せてご紹介しておく。( https://www.meijitosho.co.jp/detail/05663 )

3. 中等教育におけるデータサイエンス(DS)教育の動き

中学・高校では統計教育を負担に思う数学教員も多く、統計分野の取り扱いが必要最低限の内容にとどまっている学校も多いと聞いている。その一方で、SSHに採択された学校を中心に、高大連携も行いながら先進的なDS教育を行っている学校も増えてきている。それらの学校関係者を中心に「高校生のための”DSコンソーシアム”」( http://ds-education.com/ )が整備されているのでご紹介したい。

高校生が参加可能なDS分野のコンテストや、生徒・教員を対象とした研究会の情報、DS教材など、多彩な情報が提供されており、DSを学びたい生徒や指導に迷う教員にとって、心強い存在となっている。

また、この分野での学びを支援しようと、2021年2月から一般財団法人 統計質保証推進協会の事業として、中学生以上の生徒や教員などを対象に、統計検定の2級、および3級のCBT方式の検定試験を無償で受験できる制度も用意されている。

( https://qajss.org/fd.html )

ジェンダーの視座を活かした組織としては、2015年にスタンフォード大学を中心に始まった、ジェンダーに関係なくDS分野で活躍する人材育成を目的とした活動 WiDS (Women in Data Science)がある. 横浜市立大学や広島県・広島大学などでは、その日本組織の拠点として女性のデータサイエンティストを育成するための様々なプロジェクトを立ち上げている。その中には、中高校生向けのプロジェクトも数多く用意されている。詳細は、それぞれ以下のサイトを参照されたい。

WiDS Tokyo@Yokohama City University https://wids-ycu.jp/

WiDS HIROSHIMA https://wids.hiroshima.jp/

内閣府が発表した「AI戦略2019」に基づき、デジタル社会の「読み・書き・そろばん」としての「数理・AI・DS」の基礎などの必要な力を全ての国民に身に付けさせようという教育改革が進められている。AI社会を見据え、情報科を含む他教科との連携を取りながら、ジェンダーに関係なくDSを含む数学的素養を身に付けた人材育成に努めていきたい。